国家緊急権の持つ潜在的危険性
但し、国家緊急権には政府の権能をいたずらに強大化し、民主主義の存続そのものに懸念が生ずるという危険な要素を含む。憲法上、国家緊急権が許容される場合においても、その権能にはあくまで緊急事態から国家国民を防衛することが目的である以上は、法的な見地からして国家緊急権の発動要件には自ずと時限的な制限がある。立憲主義において国家緊急権の根拠とされるものは、まさに「必要性の法理」「自己保存の原理」というものであり、国家の平和と独立を維持する上で当然にして必要であるという主張がある。特に重要な点としては、実定法を越える事態に際して憲法がその対抗手段を持たない場合に、国家緊急権を否定するような純粋な法理というものは、現実の危機を前にして、ほとんど意味を持たないともいわれる。 一方で、緊急避難措置として立憲的独裁を許容することにより、緊急事態の危機を超えて独裁が恒久化するような状況に陥ることは、立憲民主主義がほとんど機能しなくなるという憲法学的見地からの懸念もあり、その権限を国家に許容すること自体、危険視する向きもある。具体的には不正に軍部が政府に対してクーデターを起こし、憲法に背き非民主的なかたちでの軍事政権を確立、国民を軍政のもとに置くか、或いは政府そのものが民主主義を否定・後退する手段に用いるのではないかという危惧である。
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実際に、国家緊急権が行使された例としては、2007年11月3日、パキスタンではパルヴェーズ・ムシャラフ大統領によって戒厳令が出されている。これは、ムシャラフ大統領が陸軍参謀長を兼務したまま大統領選挙に立候補したことの不当性を審理していた最高裁判所の判決を妨害する意図であったといわれ、政治権力の維持のために国家緊急権を行使した事例として知られる。